• 2009.01.25 Sunday
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アーサー・C・クラーク『暗黒の壁』

アーサー・C・クラーク『暗黒の壁』 宇宙は融通無碍にして、時の流れに浮かぶ泡粒のように漂う。時として――ごくわずかながら――流れに逆らい、または横ざまに動くものもある。さらに稀には、未来も過去も知らず、永遠に流れの外にあるものもある。シャーヴェインの小さな宇宙は、これとは異なり、その異様さは別の次元に属していた。そこに存在するものは、ただひとつの世界、すなわちシャーヴェインの種族の住む惑星と、一個の星すなわち惑星に生命と光をもたらす巨大な太陽であるトリローンだけであった。

アーサー・C・クラーク『機密漏洩』

アーサー・C・クラーク『機密漏洩』 流れ作業と大量生産が支配するわれわれの時代は、個性的な職人、つまり過去にあれほどの財宝を生み出した木と金属の芸術家はまったく存在の余地がないということが、しばしば言われる。たいがいの一般論と同様に、これはまるで事実に反している。もちろん、彼らは今や希有の存在ではあるが、決して死に絶えてはいない。しばしば天職を変える必要に迫られはするけれども、それなりの慎ましいやり方で今も活躍しているのである。その気になりさえすれば、このマンハッタン島の中でさえ、見つけることができるかもしれない。家賃が安く、消防規則なぞ聞いたこともないという土地でなら、アパートの地下室とか、廃屋になった店の二階とかに、彼らのちっぽけな散らかった仕事場が見つかるだろう。彼らはもうヴァイオリンや鳩時計やオルゴールを作ってはいないかもしれないが、その腕前は昔と少しも変わらず、その作品はひとつとしてまったく同じものはないのだ。彼らは機械化を軽蔑しているわけではない――仕事代のガラクタの下には、いくつかの電動式の道具が散らばっている。彼らは時代とともに変わったが、半端仕事の職人としていつもそのあたりにおり、不滅の芸術作品を作ったとしても、自分ではそれを知らないのである。

アーサー・C・クラーク『天の向こう側』

アーサー・C・クラーク『天の向こう側』 一九五七年に、ソ連が最初の人工衛星を打ちあげ、この大気圏外に数ポンドの装置を浮かべるのに成功した時の興奮は、いまでも覚えている。もちろん、わたしは当時まだ子供だったが、みんなと同じように夕方になると外へ出て、頭上数百マイルの黄昏の空をかすめてゆく、マグネシウムの小さな球体を見つけようとしたものである。その一部はまだそこに残っていると思うと、不思議な気分がする——もっとも、いまではわたしの下にあって、それを見ようとするには、地球のほうを見おろさなければならないのだが……。

アーサー・C・クラーク『密航者』

アーサー・C・クラーク『密航者』 「彼が乗船してきたら」ソーンダーズ船長は、タラップが伸びてゆくのを待ちながら言った。「なんと呼べばいいんだ」
 航宙士や副操縦士は、この儀礼上の問題を、黙ってじっと考えこんだ。やがて、ミッチェルがメイン・コントロール・パネルのスイッチを切ると、宇宙船のおびただしい装置は動力を失って機能を停止した。
 「ただしい敬称は“殿下”ですよ」彼は間延びした口調で言った。
 「ふん!」船長は鼻を鳴らした。「誰が相手でも、そんな呼びかたはごめんだな!」

アーサー・C・クラーク『九〇億の神の御名』

アーサー・C・クラーク『九〇億の神の御名』 「これはまた少々変わったご依頼ですな」ワグナー博士は、控えめな慎み深い態度に見えてくれればいいがと思いながら言った。 「わたしの知るかぎりでは、チベットの僧院から自動逐次コンピューターが欲しいなどといわれたのは、これが初めてのことでして――ええ――施設に、こんな機械がそれほどお役に立つとは、思いもよりませんでしたよ。いったい、これで何をなさるおつもりか、教えていただけますかな」
「いいですとも」ラマ僧は、絹の僧衣をととのえ、通貨の換算のために使っていた計算尺を注意深くしまいこみながら答えた。 「あなたがたのマークVコンピューターは、一〇桁までのいかなる通常の数学的計算も行うことができます。しかし、わたしどもの仕事では、数字にではなくて、文字に関心があるのです。出力回路の改造をお願いしてあるので、機械は数字の列ではなく文字を印刷することになりましょう」

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